


「京野菜」ご存知でしょうか?
京都の大学で農学部に所属していた私は、植物の生育や食材としての価値について学ぶ機会に恵まれていました。
とはいえ、日常的な食事では野菜を「栄養素」や「副菜の一部」として見ていたところがあり、
そこに強い思い入れがあったわけではありません。
そんな中で出会ったのが「京野菜」というテーマでした。

京野菜とは、京都の伝統とともに育まれてきた野菜たちで、
その土地の気候や文化、人々の知恵と密接に結びついた存在です。
中でも特に印象に残っているのが、今が旬の「加茂なす」と「万願寺とうがらし」です。
加茂なすは、京都・賀茂地域で古くから栽培されている丸なすで、
そのずっしりとした重みと艶やかな見た目にまず目を奪われました。
実際に田楽にして食べてみると、とろけるような食感と甘みが口の中に広がり、ナスのイメージが一変しました。
それはまさに、野菜が持つ力を実感できる瞬間でした。
また、万願寺とうがらしも印象深い京野菜の一つです。
名前に「トウガラシ」とありますが辛くはなく、むしろほんのりと甘くて香ばしい味わいが特徴です。
肉厚でジューシーなこの野菜は、グリルして塩をふるだけでも十分に主役になれる存在感があります。
この「素材を活かす」料理に出会うことで、私は調理とは引き算でもあるということを学びました。
この経験を通して、「食材を深く知ること」が、よりよい料理や豊かな食生活につながるのだと実感しています。
それは野菜だけでなく、鶏肉のようなたんぱく源においても同じです。
どの部位をどう扱えば美味しくなるのか、どんな調理法がその特性を最大限に引き出すのか。
素材を知っているからこそ、シンプルでも深い味わいが生まれるのです。
もしまだ京野菜を味わったことがないなら、ぜひ一度手に取ってみてください。
加茂なすのとろける口当たり、万願寺とうがらしのやさしい甘み
――どちらもきっと、「野菜ってこんなにおいしいんだ」と思わせてくれるはずです。